013784 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

(保管庫) 草食伝・・日本狼の復活かも・・違うかも・・・

(保管庫) 草食伝・・日本狼の復活かも・・違うかも・・・

《第4話》 【ジョン戦】

《第4話》 【ジョン戦】

 1対1のプライベートレッスン。
教師は、ジョンという30代前半の白人男性。

 ジョンは、最初から、困ったような顔をして、「なぜ、アメリカ人を攻撃する?」と言った。
なんだ、まじめな話か?

「最初に攻撃してきたのは、アメリカ人だ。俺が、やっていることはアメリカ人攻撃じゃ ない。防御だ。」

「誰が、なんといって攻撃した?」
「リサというアメリカ人女性が、箸を使う日本の文化を攻撃した。俺は、日本人として、 戦う。おまえたちは、アメリカ人として戦え。」
「いや、それは、よくない。リサが悪いことをしたのなら、俺が謝る。」

 日本に来ているアメリカ人が、日本人ともめるのは、やはり、よくないと感じるのかもしれない。
その、気持ちはわからないでもない。
もし、自分がアメリカに行ってたら、同じだと思うから。

だけど、今回のことは、アメリカ人が外国の人を下に見ている、見下したがっているという、その根性が気にいらねーからという話なのだ。
俺は、背筋をのばして、強い口調でこう言った。

「謝るくらいなら、最初から攻撃するな。攻撃するなら、最後まで戦え。そして謝るな」

自分の言った言葉で、自分が刺激を受けることが、たまーにだが、あるものだ。
かなりハイテンションになってしまった。どうしよう。

ジョンはじっとして、だまっている。どうしよう。
えーい、こうなったら、この手しかない。

「だまっているのか? ということは、おまえは、言葉ではなく、体のファイティングを 望んだな。O.K. 表へ出ろ。」

やばい、かなりの興奮状態に自分でなってしまった。声もでかくなってる。
でも、ジョンはじっとしている。
でも、いくしかない。俺は、立ち上がって、アントニオ猪木のように言った。

「来い!!」

すると、とつぜん、後ろのドアが開いて、外国人がのぞきこんでいる。
外国人は、表情が豊かだ。眉毛を八の字にして、そして、きまり文句を言った。

「なにが起こったんだ?」

部屋はすべて、ガラスばりになっている。
大声が聞こえたので、ほかの教師が心配して来たらしい。
あるいは、他のアメリカ人が助っ人にきたのかもしれない。

俺は、そいつもにらみつけて、
「おまえは、どこの国からきた?」と聞いた。
彼は、オーストラリア人だと答えた。

俺は、そいつに言った。
「これは、日本人対アメリカ人のけんかだ。オーストラリア人には、関係ない。自分の部屋へもどれ。」

そのオーストラリア人は、なぜか、ニッコリ笑い、首を大きく縦にふった。
俺は、ジョンの方へ向き直り、さあ、再開だと思ったが、まてよ。
オーストラリア人が、戻る様子がない。俺は、そのオーストラリア人の方へ向き、ひとつため息をついた。

「これは、ショーじゃない。向こうへ行け」
彼は、ニッコリ微笑んだまんま、また、大きく首を縦にふり、言った。
「そう、それは、ショーじゃない」

そのあとに、むずかしい英語をつづけたが、意味がわからない。
まあ、いいか。でも、ついでだから、聞いとこう。
「日本では、けんかは、外でやることになっている。オーストラリアではどうなんだ?」
「オーストラリアでもそうだ」
また、微笑んだまんま、首をコックリ。ヨーシ。

俺は、ジョンのほうに向き直り、言った。
「さあ、出ようぜ。ぐずぐずしていると、日本人とアメリカ人のけんかじゃなくて、白色人種と有色人種のけんかにするぞ」

ジョンは、あからさまに、ビクッとしたが、困ったという表情をくずさず、黙っている。

英会話の先生が、黙ってていいのかよ。
異文化コミュニケーションつーやつを できねーじゃねーかよ。
やんなっちゃうねー。

もう一度、オーストラリア人の方を向き、聞いてみた。
「オーストラリアの少年たちは、こんなとき、どうしてる?」

彼は、また、むずかしい英語で、ペラペラしゃべりはじめたが、ニッコリ笑って「あなたの勝ちだ」と言って、親指を立てたところだけは、わかった。
いやみのない笑顔は、つられることがある。
俺も、ニヤッと笑い、うなづいて、ジョンに言った。

「俺の勝ちだ。おまえの負けだ。終わりにしよう。それでいいか」

ジョンは、捕虜収容所から、解放された兵士のように、表情をやわらげ、「それでいい」と言った。

 異文化コミュニケーションと同文化コミュニケーション、むずかしいけどおもしろい。

 


 


《 目次へ 》


《 HOME 》



© Rakuten Group, Inc.